50話 ページ1
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振り返ると、やっぱり。そこにいたのは渡辺くんだった。
「おー、なべじゃん」
深澤くんが渡辺くん の方を向くけど、私は何だか気まずくて顔をあげられずにいた。
「え、珍しいね。そこそんな仲良かったっけ?」
「あー、この前なべに連絡先教えてもらったじゃん?それで話して仲良くなったの。ね?Aちゃん」
「う、うん。そうなの」
「あー、だから今日用事あるって言ってたのか」
深澤くんが上手く誤魔化してくれて、なんとか今日会っていた理由を言わずに済んだ。
どうやら渡辺くんは深澤くんに遊ばないかと声を掛けていたらしい。
「てか、なべこそゲーセン来るなんて珍しーじゃん。どしたの?」
「あー、佐久間の付き添い」
渡辺くんが私達のいた方とは逆方向を指さすと、そこには確かにクレーンゲームで美少女フィギュアと戦う佐久間くんがいた。
「おーおー、苦戦してるねえ」
「うん、もう既に2000円はつぎ込んでるから行ってやって」
「はいよー、ちょっと待っててね」
そう言って深澤くんは佐久間くんの方へ行ってしまった。
そんな……いま渡辺くんと2人きりにするなんて……
ちらりと渡辺くんの方を見る。
彼は私の腕の中のぬいぐるみをぼーっと見つめると、それとそっくりにきゅっと口角を上げて言った。
「Aさんそのキャラクター好きなの?」
「え?あ、うん」
渡辺くんに似てたから……なんてそんなことは言えない。
「あっちにマスコットもあったよ。行こ」
なんて手をゆったりとひらひらさせて手招きをされる。
いつも通りのゆるやかで柔らかな動きは、私の視線を釘付けにしてしまう。
不思議だ。さっきまで気まずさを感じていたのに、いざ渡辺くんといると居心地が良い。
――もちろん、緊張はしているのだけど。
渡辺くんについて行くと、確かに可愛いぬいぐるみマスコットの台があった。
こっちに笑いかける顔が可愛くて見入っていると、「あー、取れっかなあ」と渡辺くんはポケットを漁って小銭を入れた。
「え?」
「あんま期待しないでね」
なんて言って真剣にアームを操作している。
「よっし、行け!」
降りていったアームはマスコットを掴むけど、途中で落としてしまった。
「あー、マジか」
「これ、難しいよね」
渡辺くんはガクッと肩を落とした。
そうだよね、私もこうなる。気にしないでいいのに。
「や、もう1回行かせて?」
そう言って渡辺くんは再び小銭を入れる。
結局取れたのは5回目くらいだった。
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作者名:エラ | 作成日時:2024年3月2日 20時