51話 ページ2
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正直、私は途中からアームじゃなくて真剣な顔をして操作している渡辺くんの横顔ばかり見ていたんだけど。
集中していた渡辺くんは気づいていなさそうだった。
「はー、良かったマジで」
渡辺くんは息をつきながら取り出し口に落ちたマスコットを拾い上げると、はい、と私の手に乗せた。
「え?いいの?」
「ん、俺がAさんにあげたくて取ったから。良かったら貰ってよ」
「わあ……ありがとう!」
渡辺くんから貰った初めての食べ物や飲み物以外の手元に残るもの。
嬉しくて手のひらのマスコットを見つめた。
これ、一生大切にする!!
「あ、この間言ってたお礼はまた別に用意するから」
「え?……いいよいいよ!すごい嬉しいし」
「いいの。これはほんとに俺があげたくてあげただけ」
そう言って譲らない渡辺くんに私が折れた。
「いつもいつも……ありがとうね」
「ほんと、気にしないで。Aさん、めっちゃ目キラキラしてたね」
「え、恥ずかしい……」
ふふん、と笑った渡辺くんの言葉に、それさっき深澤くんにも言われたなって思い出す。
私ってかなり表情が表に出るタイプだったらしい。
「じゃー、ふっかと佐久間んとこ行くか」
そう言って2人の元へ向かって行く渡辺くんの背中を追いかける。
今更だが、改めて渡辺くんの私服姿を目に焼きつける。シンプルなTシャツをサラッと着こなしていて、彼の整った顔立ちやスタイルを引き立てていた。
あいにく私は深澤くんのように異性の服装を褒めることなんてできないので、かっこいい!という声は心の中に留めた。
もう、渡辺くんとの時間はおしまいか……
次に渡辺くんと会えるのは……そう考えると、胸がズキリと痛んだ。
夏祭りだ。きっと、渡辺くんが彼女と行くにしても行かないにしても、深澤くんたちと行くのだから会うのだろう。
……彼女と、行くことになったのかな。
そう思ったら、自然と足が止まった。
それに気がついた渡辺くんがこっちを向く。
「Aさん?……どしたの?」
聞くか、聞くまいか。
聞いて変な風に思われるのも、現実を聞かされるのも怖い。
――だけど、聞かずにはいられなかった。
「渡辺くん、夏祭りは彼女と行くの?」
彼は少しだけ驚いたように目をぱちぱちとさせて少しだけ目を逸らした。
「あー、うん。誘われたし。行くよ」
その一言は、たまたま休日に彼に会えて舞い上がっていた私を沈ませるのには十分すぎる重量だった。
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作者名:エラ | 作成日時:2024年3月2日 20時