54話 ページ5
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「え……」
思わず声を漏らした私に千夏が気付いて、「大丈夫？」と声をかけてくれる。
うん、と返事を一応したけど、かなり動揺している。
2人はこちらに気が付いていないようだった。
「そっとしといてやれよ」
「あはは、邪魔なんかしないってー」
と深澤くんと佐久間くんが話している。私だけでも場所移動しようかな。
そう思った時。花火がバン！と空に打ち上がった。
「わ、キレイ」
どんな時でも綺麗なものは綺麗に見えるようだ。
2人が案内してくれた特等席というのもあって、本当に美しい景色が目の前に広がった。
煌びやかな花火を受け止めるようにゆらゆらと揺れて反射する川の水面も相まって、涙が出るくらい美しい。
私は現実から目をそらすように花火を見ることだけに集中した。
どのくらい経っただろうか。
クライマックスを迎え、1度にたくさんの花火が打ち上がって、眩しいくらいの景色が広がる。
その眩しさに、視線をずらしただけのつもりだった。
見ないようにしていた渡辺くんたち2人の影は重なっていて、慌てて目をそらす。
動揺が隠しきれずに後ずさると、何かにぶつかって、横を見ると深澤くんと目が合った。
彼は私の視線を追って、少し苦い顔をすると私の目を手で覆った。
突然のことに驚いたが、少しだけ安心してしまう自分がいる。
しばらく経つと、視界が明るくなった。
花火の音も落ち着いて、夜空には煙だけが残っている。
「うわー、今年もマジキレイだったねー」
「ここで見るのめちゃめちゃキレイだった！」
たった今終わったのだろう。前で見ていた2人が盛り上がり始めた。
深澤くんの方を見ると、何事も無かったかのように上を見上げて伸びをしている。
もう一度渡辺くんたちの方を見ると、2人が歩き出しているのが見えた。
よりによってキスを見てしまうだなんて、今日の私はよっぽどツイてないのだろう。
どんどんと沈む気持ちを隠すように、来た道を戻りながら花火の感想を言い合った。
「私、トイレ行ってくるね」
「あ、俺も行く」
「俺も」
駅へ向かう前に、私以外の3人がトイレへ行きたいとのことで、なんとなく1人になりたかった私は特に行きたいわけでもなかったので、近くでひとりで待っていることにした。
つくづく、私は運がいいのか悪いのか。
どうしてこういうタイミングは合ってしまうのだろうと、誰か教えて欲しい。
「……あれ、Aさんだ」
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作者名：エラ | 作成日時：2024年3月2日 20時
