渡辺くん、こっちを向いて【2】 (ページ7)

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56話ページ7

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「え、翔太もトイレ待ち？」
「そー、そしたらAさん見っけた」

ね、と渡辺くんに顔を覗き込まれて、慌てて頷いた。
やっぱり、2人が来てくれてどこかほっとした私は息をついた。
だってこのまま1人で待ってて、先に渡辺くんの彼女である桃花さんが戻って来たら、今度こそ私は泣いて逃げ出してしまいたくなっていたと思う。
いや、もちろん会わなくて済むのが1番いいのだけど。

「あー、Aちゃんさ、コンビニ付き合ってくんない？」
「え？」

そんな私の気持ちを読み取ったかのように、3人の会話をぼんやりと聞いていた私の肩を、誰かが叩いた。
困ったような顔をした深澤くんと目が合う。
そうだ、彼には間に立たせてしまっていて申し訳ないことをしていたんだったと気付く。

「え、コンビニって駅の近くしかないじゃん」

と渡辺くんが言う。たしかに、ここの近くのコンビニと言ったら駅の近くにしか無い。

「そ。だから用事済んだら俺ら駅で待ってるわ。佐久間は千夏ちゃんのことちゃーんと連れてくるんだよー」

深澤くんはふわふわとした口調で話すと、私がうんともすんとも言わない間に私の肩を押して駅の方へと向かって歩き出す。

「いいけど、なに？急に」

佐久間くんも不思議そうに深澤くんの方を見る。
だって、さっき屋台でもう食べられない！ってくらい食べまくったもんね。
疑問に思う気持ちも分かってしまう。

「食べすぎて喉乾いたのよ。Aちゃんもさっき花火の時言ってたよね？」

と私にふられて、やっぱりこれは彼の助け舟なんだと理解する。

「そうそう、2人が奢ってくれたからつい食べ過ぎちゃって喉カラカラなんだ」

と言い訳を紡いだ。

「え、そうだったの？気付かなくてごめんね」

と佐久間くんが申し訳なさそうに言うので、慌てて首を振った。
そんなことはなかったのだから、気が付かなくて当然だ。佐久間くんは全く悪くない。

「なんか、2人最近仲良くね？」

渡辺くんはぽろりとそんなことを呟いた。
たしかに、事情を知っている深澤くんとは大分距離が縮まったと思う。
……けど。それはあくまて渡辺くんの影響なんだけどな。

「まあまあ、翔太くんは俺と2人でもうちょっと待ちましょうねー」

なんだか一瞬だけ渡辺くんくんの纏う空気がいつもと違うような気がしたが、佐久間くんに肩を組まれて「うわ！暑苦しい」と逃げている彼はもういつも通りだ。

私は深澤くんに肩を押されるがままに駅の方へ向かった。